『私と介護』(新日本出版社)
そのため島田氏は東京を引き払い、佐賀に引っ越すことを決意する。〈芸能界の仕事も大切かもしれないけど、それより親の方が大切やと思った〉からだ。その後14年もの間、夫婦と妻の兄弟を含めた介護生活が続いた。しかしお互いが率直に話し合い、介護も協力できたことで、それを乗り切ったという。
両親のダブル介護を経験したのが、タレントの春やすこ氏だ。春氏の父親は20年以上前から脳梗塞で右半身が不自由となり、大病も繰り返した。そんな両親が心配で2005年に同居を始めた春氏だったが、その父親が階段から落ちて、要介護5となる。さらに今度は母親が自転車で転倒してしまう。春氏の2人の子どもも介護を手伝ってくれたが、それでも春氏の負担は大きかった。
〈朝6時前に起きて3時間おきにオムツを替え、食事を運ぶなど、一日中父の世話をしながら、母の通院につきあう生活です。くたくたになって、「なんで何もかも私が……」と、ストレスで過食になりました。しんどいときは、「お父ちゃんなんかさっさと死んでくれたら楽やわ」と毒吐いて傷つけたこともあります〉
そんな春氏だったが、両親の気持ちを優先し、最低限の介護サービスしか利用しなかった。だが、その異変に気づいたのがケアマネージャーだったという。「今したいことは、なんですか?」との問いに、大学を卒業する娘との旅行を伝えると、「介護サービスを使って行ってきて」と背中を押されたのだ。その後、春氏は以前より介護サービスを使うようになり、気持ちの切り替えができたという。
〈お年寄りの知恵を借りたり、大切に敬うことが今の日本では本当に少ないですよね。高齢者への敬意がない現状に怒りが湧きました〉
〈先人たちの知恵を、しっかり受け継ぎ、バトンタッチをしなくてはと思います〉
「働いている人の収入が、大変な仕事の割には少ない」「東京オリンピックで本当に3兆円使うのなら、それを削って介護士さんの給料を上げてほしい」(島田洋七氏)
「相談できる人を見つけて、ためこまないこと。サービスも受けて、どんだけズボラにできるか考えると、気が楽ですよ」(春やすこ氏)
「仕事がなければ孤独に陥り、煮詰まってしまうでしょう。ブログなどで発信し、社会にかかわりながら誰かの役にたつことは、私自身の救いでもあります」(認知症の母親を介護するフードライターの大久保朱夏氏)
「介護は突然やってきますし、介護する側の心が豊かでないと成り立ちません。家族をサポートする体制をもっと増やしてほしい」(安藤桃子氏)
「政府はいま、施設介護を見直し、在宅介護にシフトさせようとしています。悪い方向ではありません。しかし、介護の働き手は備わっていないなかで、互助や家族でごまかされては困ります」(20代で母親を、30代で父親を、そして夫を在宅介護で見送ったノンフィクション作家・沖藤典子氏)
しかし、これで問題が解決するかといえば、そうではない。これまでにも、「介護休業法」は存在し、93日までの介護休業が認められていたが、その取得率はわずか3.2%。それが分割で取れると改正されたからといって、劇的にその数字が上がるとは思えない。しかも申請すると企業は基本的に拒否できないが、その罰則は最大20万円の過料と、悪質な場合の企業名公表だ。これが一体どのくらい効力があるのか。現在の日本企業の体質を考えると大きな疑問が残るものだ。さらにパートなどの非正規や、契約1年単位の派遣社員、リタイア後の老老介護や、専業主婦に対しては、何の効力もない。
そもそも本サイトでも何度か指摘したが、現在、安倍政権が推し進めているのが“家族による在宅介護”と“介護締め出し”政策だ。15年4月にも介護保険法が改正されているが、これで介護難民が減るどころか、特別養護老人ホーム(特養)の入所条件が厳しくなった。それまで「要介護1」以上だったのが「原則要介護3以上」と引き上げられ、それが介護保険法の施行規則に明記されたのだ。これでは入居したくても申込みすらできなくなり、門前払いされる要介護者が増加するだけだ。また入居できたとしても補助認定が厳格化され、さらにこれまで全員1割だった自己負担割合が、年金収入280万円以上の場合で2割に倍増した。
こうした政策は、右肩上がりの介護保険制度の財政を抑えるため、家族による在宅介護に重点を置くものだ。要介護者が必要なケアを受けられないだけではない。家族にとっても、これまで以上に精神的かつ肉体的、そして経済的な負担が増加するということでもある。「介護離職ゼロ」どころか、はっきり言って、介護サービスの崩壊と高齢者の切り捨てだ。
介護が必要な人々と、それを支える介護者のため、同書のように多くの著名人たちが声をあげる。こうした声が大きなムーブメントとなることを祈りたい。
(伊勢崎馨)
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