刑事事件で逮捕、送検された容疑者の多くは引き続き身柄を拘束される。勾留と呼ばれる処分で証拠隠滅や逃亡を防ぐため、検察が請求し、裁判官が可否を決める。
この制度をめぐり、疑問や問題点が繰り返し指摘されている。
必要性の乏しい場合まで拘束していないか。容疑者を強引に自白させるのに利用されていないか。
「人質司法」と批判されるような実態は改めたい。
最高裁が注目すべき決定をした。京都市の地下鉄の車内で痴漢をしたとして逮捕され、否認していた男性の勾留を取り消した。
地裁の裁判官が勾留請求を却下し、検察の不服申し立てで地裁の別の裁判長が勾留を認めたケースで、今回の決定はこう述べる。
要は、証拠隠滅の可能性が現実的にどの程度あるかだ。しかし、隠滅の可能性が高いことを示す具体的事情はうかがえない―。
安易な身柄拘束への警鐘で、各裁判所は重く受け止めるべきだ。容疑内容の軽重とのバランスも十分に考慮しなければならない。
起訴前の勾留は通常、最長20日間で、刑事訴訟法は要件の一つに「隠滅すると疑うに足りる相当な理由」を挙げる。だが、実際は抽象的な「隠滅のおそれ」でも認められている、との批判が根強い。
勾留請求却下率はこの10年で上昇したが、それでも昨年で1・6%だ。裁判所は、批判に真摯(しんし)に耳を傾ける必要がある。
起訴後の勾留の在り方も問われている。この段階では捜査が終わり、証拠は保全されている。なのに保釈がなかなか認められないケースが依然として少なくない。
ただ、裁判員裁判事件を中心に裁判所の姿勢に変化が見られる。
審理への支障がなければ、できる限り保釈を認め、弁護人との打ち合わせなど公判の準備を十分できる環境を確保する―。裁判の迅速化という要請に応えるためだ。
こうした運用は裁判員事件以外にも積極的に広げるべきだが、それだけで解決できるだろうか。
刑事司法改革で法務省は来年の通常国会に刑訴法改正案などを提出する方針だ。取り調べの録音・録画(可視化)の義務化などが柱で、法制審議会の答申を受けた。
残念なのは法制審特別部会で勾留と在宅の中間に当たる処分の創設を検討しながら意見がまとまらずに採用が見送られたことだ。
証拠隠滅などのリスクを確実に減らしつつ、身柄を拘束しない仕組みは不可欠だ。国会は立法府としての責任を果たしてほしい。