https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2021052900153

 政府はきのう、3度目の緊急事態宣言を延長すると決めた。東京や大阪など9都道府県について31日まで発令中の宣言の期限を、沖縄県に出している6月20日に合わせる。

 7月23日の東京五輪開幕を意識した日程ありきの延長であってはならない。新型コロナウイルスの感染拡大を徹底して抑え込み、先への備えを明確にする期間にしなければならない。

 3月下旬から始まった第4波は、英国に由来する変異株が猛威を振るっている。従来株より感染力が強く、重症化するスピードも速い。感染者の急増に医療が追いつかない事態も現れている。

 全国の新規感染者数は今月に入って一日7千人を超えた後、減少に転じた。ただ、横ばいや減少の地域がある一方で増加する地域もあり、予断を許さない状況だ。

 昨年4~5月の第1波で出された最初の宣言は、全国に網を掛けて新規感染者数を2桁に抑え解除した。その後、政府が観光支援事業「GoToトラベル」を前倒しで始めたことも重なって、2カ月後には第2波が起きている。

 今年1月に11都府県を対象に出された2度目の宣言は、第3波の全国新規感染者が千人前後で下げ止まる中、3月中旬までに解除。すぐ第4波に見舞われ、3度目を発令せざるを得なくなった。

 政府の中途半端な対応や甘い見通しが、事態の繰り返しを招いている。いまある感染の波を抑えることだけに注力するのではなく、第5波を見据えた備えも確実にしておかねばならない。

 懸念されるのはインド株だ。英国株より1・5倍程度感染力が強く、人間の免疫から逃れやすい性質があるとされる。インドでの感染爆発の一因ともいわれる。

 国内では24日時点で29人の感染者が見つかっている。検疫でも160人が報告された。どの程度広がっているか実態は不明だ。

 英国株がまん延した第4波と同じように、今後インド株に置き換わる形で新たな感染拡大が起こる可能性は高い。

 感染の有無を判別できる検査体制を全国で早急に整えねばならない。医療体制の再構築も必要だろう。危機感を国民と共有することも大切になる。

 宣言解除の判断にインド株への備えも加えるべきだ。

 長引く緊急事態で、仕事を休んだり失ったりして、生活が立ちゆかなくなった人は多い。支援は必要な人へ速やかに届いているか。目配りを怠ってはいけない。