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 政府は28日、新型コロナウイルス緊急事態宣言の再延長の期限を、東京五輪開会式の約1カ月前となる6月20日に設定した。政府は感染対策と五輪は無関係と説明するが、菅義偉首相は五輪に強いこだわりを見せている。官房長官時代を含めて宣言発令や解除、まん延防止等重点措置の適用のタイミングは五輪への影響を避けたり、本番を見据えたりしたものだとの見方は根強い。(村上一樹、上野実輝彦)

◆札幌「重点措置」はテスト大会後

 政府が期限延長を報告した28日の参院議院運営委員会で、共産党の紙智子氏は今月5日に札幌市で開かれた五輪マラソンのテスト大会に言及。政府が終了後に同市への重点措置の適用を決めたと指摘し「終わるのを待って(対策が)遅かったのではないか。命より五輪を優先させたのではないか」と追及した。大会後に、道内の新規感染者数の増加傾向は加速した。
 西村康稔経済再生担当相は「大会が感染拡大に影響したかどうか、分析を進めたい」と応じたが、紙氏は沿道での応援自粛要請にもかかわらず、多くの人が集まったとして「本番に突入したら大変なことになるのではないか」と危惧した。

◆「1年延期」決定後に発令、解除後に聖火リレー

 政府のコロナ対策は、五輪との関連が指摘され続けてきた。安倍晋三前首相が昨年4月、初の緊急事態宣言を発令したのは、東京五輪・パラリンピックの1年延期が決定した2週間後。それまで安倍氏は「諸外国と比べ感染者増加の速度を抑えている」と宣言に消極的で、政府の対応が後手に回ったと批判を浴びた。
 菅首相は今年1月に2回目の宣言を発令し、五輪の聖火リレーが始まる3月25日の3日前に解除。専門家や医師が、解除すると東京などで「リバウンド(再拡大)の危険性が高い」と案じた通りの状況になり、1カ月後には3回目の宣言発令に追い込まれた。

◆「国内の人流止めないと…」

 首相が五輪にこだわるのは「開催に自分の政治生命が懸かっている」(自民党中堅)からだと見る向きが多い。自民党内では、ワクチン接種で感染リスクを減らし、宣言を解除して開催にこぎ着ける。成功を政権浮揚につなげ、秋までに行われる衆院選に臨む―とのシナリオがささやかれる。
 国際オリンピック委員会(IOC)側では、ジョン・コーツ調整委員長が宣言下の東京でも大会を開くかとの問いに「もちろんイエスだ」と明言。最古参委員のディック・パウンド氏は週刊文春の取材に「首相が中止を求めても個人的意見にすぎない。大会は開催される」と言い切った。日本政府側から反発や戸惑いの声が上がると思いきや、首相は28日の記者会見で本紙の質問に対し、発言の評価に言及せず、宣言下での開催の是非も答えなかった。
 首相らは、このまま五輪本番に突き進むのか。専門家からは、選手・大会関係者以外の人の流れも感染拡大をもたらすことへの懸念の声が上がり始めている。
 政府提案の期限延長を了承した28日の基本的対処方針分科会の会合後、メンバーの釜萢かまやち敏・日本医師会常任理事は記者団に「国内の人流が大きく動かない形でないと、開催は難しい」と語った。