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電気代の高騰を受け、給油して石油暖房機器を活用する安彦恵里香さん

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 「電気代が8万円になりました。ぎゃー」。中国新聞の「こちら編集局です」取材班がインターネット上で悲痛な声を見つけた。使用量が大きく増えたわけでもないのに、料金が急騰したというのだ。取材を進めると、声の主に電気を供給する新電力の電気の仕入れ値が跳ね上がっていた。2016年の電力小売り全面自由化以降、置き去りにされてきた制度設計の甘さも見えてきた。

 広島市中区でカフェ「ハチドリ舎」を経営する安彦(あびこ)恵里香さん(42)が1月下旬、会員制交流サイト(SNS)で苦境を訴えた。店の電気料金は8万円で前月の5倍。自宅の料金も約10倍に上がった。

 安彦さんは新電力のテラエナジー(京都市)と契約している。太陽光や風力など再生可能エネルギーに由来する電気に魅力を感じた。電気の市場価格に応じた電気料金の変動も理解した上での契約だった。それでも「ここまで上がるのは想定外」と衝撃を受けた。

 全面自由化以降、中国電力など大手電力10社以外から電気を買えるようになった。参入した新電力は約700社、テラエナジーもその一つだ。竹本了悟社長(43)に理由を聞いた。「電気を買う市場の価格が、どうしようもない水準まで上がった」との答えだった。

 新電力は自前の電源を持たないケースが多く、日本卸電力取引所(東京)が運営する市場などで電気を調達している。翌日販売分の電気の価格は通常、1キロワット時当たり10円程度。それが、厳しい冷え込みが続き全国的に電気の使用が増えた1月15日には一時、過去最高の251円に達した。

 テラエナジーは主に、再エネの固定価格買い取り制度(FIT)で大手電力が買い取った電気を別の新電力から仕入れて売っている。その仕入れ値が市場に連動しており契約通りに利用者の電気料金も跳ね上がった。他の新電力でも、市場連動の料金を選んでいた人の電気代が急騰。同社は2月、大幅な料金変動による顧客離れを懸念し、1キロワット時当たりの価格を固定した料金制度を導入した。

 新電力も想定しなかった市場価格の高騰。その背景を取材すると、火力発電所の燃料である液化天然ガス(LNG)の全国的な不足が見えてきた。

 市場価格は昨年末から上がっていた。資源エネルギー庁によると、米国などLNG原産地のプラントでトラブルが頻発。中国や韓国も寒波に見舞われて発電用のLNGが奪い合いになり、日本に入りにくくなった。国内の大手電力がガス火力の発電を絞る中で、急な暖房需要が発生。大手電力でさえ他社から電気の融通を受ける異例の事態となり、市場価格は急上昇した。

 新電力のイーセル(広島市)には同業他社から事業を買い取ってほしいと打診が入るようになった。堀田剛社長(48)は「このままでは新電力の廃業が進み、消費者は電気の購入先が狭まる。LNGの在庫状況などの情報を可能な限り開示し、新電力が電気の需給動向を見極められる環境をつくってほしい」と訴える。

 電力市場の価格高騰を受け、複数省庁にまたがる規制を総点検する河野太郎規制改革担当相の特別チームは2月、経済産業省に市場の抜本的な再設計を求めた。自然エネルギーによる電気を強みにする新電力も多く、公正に競争できる市場がなければ再エネの拡大にブレーキがかかる可能性がある。

 (中国新聞・桑田勇樹)

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