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 後志管内寿都町はきのう、高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場選定を巡り、文献調査に伴う国からの交付金を初めて盛り込んだ2021年度一般会計予算案を町議会に提出した。

 文献調査への応募は片岡春雄町長が「肌感覚」で独善的に決め、町民の間で賛否が分かれている。分断が進む中、交付金を歳入に充てる町政運営は疑問だ。

 一般会計は55億円。歳入のうち核ごみ交付金は10億円を見込み、18%を占める。依存構造が早くも浮き彫りとなった。

 ただ現段階で正式な交付額や時期は確定していない。未確定の財源に基づいた予算編成は、歳入不足に陥る恐れがある。

 最終処分場は1次産業や観光業にも甚大な影響を及ぼす。周辺自治体にも不安が広がる。交付金の予算化などで既成事実を重ね、文献調査を強引に進める手法は改めるべきだ。

 文献調査は国の認可を受けた原子力発電環境整備機構(NUMO)が昨年11月から実施している。国は調査を行う自治体に2年間で最大20億円を交付し、地域活性化や公共施設整備に使える。

 町は来月、交付金の使途計画を国に申請する。消防や教育関連の人件費など4億3千万円を継続事業に充てる。残りは基金に積み立てる意向という。

 国が交付金を削減した場合、町民の安全や安心を守る業務の人員確保に支障が出かねない。自治体運営の基本は、歳入の確実な確保にある。

 町長は文献調査に応募した際、交付金を洋上風力発電の誘致に充てる考えを示していた。だが予算案には盛り込んでいない。町民への説明が欠かせない。

 町はきのう、最終段階の精密調査前に住民投票を行う条例案も提出した。第2段階の概要調査に進む考えを明確にしたと言えよう。住民の意見が割れた中で手続きを進めれば混乱を招くだけだ。

 概要調査以降は、地元自治体の首長に加え、知事の同意が必要になる。鈴木直道知事は既に反対の意向を示している。条例提案は先走った対応ではないか。

 まずは文献調査の是非について早急に住民投票を行い、町民の意向を把握するのが筋だろう。

 文献調査を巡り、町の混乱は深刻の度を増している。寿都町漁協では、役員だけで町長への支持を決めたことを背景に全役員が辞任した。こうした事態の広がりが懸念される。