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 業界のため便宜を図ってほしい。そんな趣旨で業界の顔役が大臣室などで広範な職務権限を持つ閣僚に現金を手渡す-。

 起訴内容が事実とすれば、絵に描いたような贈収賄事件である。あからさまな汚職の構図に驚くとともに、一向に後を絶たない「政治とカネ」を巡る腐敗の連鎖に怒りを禁じ得ない。

 吉川貴盛元農相=自民党を離党=が鶏卵生産大手アキタフーズ(広島県)グループの元代表から在任中に賄賂を受け取ったとして、検察当局は収賄罪などで吉川元農相を、贈賄罪などで元代表を在宅起訴した。

 起訴状によると、元農相は家畜をストレスの少ない環境で飼育する「アニマルウェルフェア」国際基準への反対意見を取りまとめるなど、業界に便宜を図ってもらいたいとの趣旨を知りながら、2018年から19年にかけて東京都内のホテルや農水省大臣室で3回にわたり計500万円を受領したとされる。

 起訴された2人は任意の事情聴取の中で、現金授受の事実は認めつつ、元農相は「大臣就任の祝いと思った」と賄賂性を否定しており、元代表も「業界のため提供したが、何らかの依頼やお礼のために渡したことはない」と供述しているという。

 問題なのは、一連の疑惑が発覚すると、元農相は健康上の理由で昨年12月に衆院議員を辞職し、疑惑に関する説明責任を果たしていないことだ。

 現在も入院中で、証拠隠滅や逃走の恐れがないため在宅起訴になったとみられるが、刑事責任の追及と政治家の説明責任は全く別のものだ。もし議員を辞職したから説明責任は免れると考えているとすれば、勘違いも甚だしい。閣僚を務めた自覚はあるのかと問いたい。

 今回の事件は19年の参院選広島選挙区を巡る河井克行元法相夫妻の買収事件の捜査でアキタ社が家宅捜索を受けたことが端緒だった。元代表は河井元法相=公選法違反罪で公判中=や元農相の政治資金パーティーで、名義を偽装してパーティー券を購入したとして政治資金規正法違反罪でも在宅起訴された。

 地方政界や特定業界を巻き込む「政治とカネ」の闇は深い。検察には徹底解明を求めたい。

 ここで改めて問いたいのは菅義偉首相の責任である。吉川氏は18年に安倍晋三内閣で農相に起用された。菅氏とは衆院初当選が同期という間柄で、先の自民党総裁選では菅氏陣営の選対幹部を務めていた。

 首相と自民党は、その自浄能力が鋭く問われていると受け止めねばならない。首相は吉川氏に対し、野党が求めている国会招致に応じて説明責任を果たすよう説得すべきだ。