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 新型コロナウイルスの 影響に苦しむ労働者の間で、将来受け取る給与を実質的な担保にして現金を借りる「給与ファクタリング」と呼ばれる資金調達手段が広がっている。法規制がな いため悪質業者が横行しており、福岡県内では手数料が年利換算で千%超のケースも起きた。同県弁護士会有志は今春、被害弁護団を結成。金融庁などが警戒を呼び掛ける新手の「ヤミ金」の実態を探った。

 福岡県宮若市の男性(33)は月給20万円の清掃会社で働く。昨年夏、消費者金融への借金返済が追いつかず、インターネットで見つけた「給与ファ クタリング」を申し込んだ。給与をもらう権利を業者に手数料引きで買い取ってもらい、支給日後に全額買い戻す仕組み。最初はうまく回っていた。

 今年3月。コロナ禍で収入が減り、20社と少額取引を繰り返す自転車操業に陥った。月の途中で業者に3万円分の給与債権を売り、1万4千円を受け 取った。手数料1万6千円は額面のおよそ53%、年利に換算すると約1300%。会社には督促の電話が1時間置きにかかり、緊急連絡先にしていた実家にも 請求がきた。男性は「高いと分かっていたが、その場しのぎだった」と振り返る。

 この契約20社を取材すると、ほとんどが不通か屋号が変わっていた。うち1社は「保証人はいらない。職場の在籍が確認できれば契約できる」と説明した。

 ファクタリングは従来、建設やソフトウエアなどの中小事業者に、運転資金のつなぎなどで利用されてきた。主に「債権譲渡(売買)」の契約となるため、貸し付けの上限金利などを定めた貸金業法や利息制限法などの規制はなく貸金業のような登録もいらない。悪質業者はその穴を突いてきた。

 福岡県弁護士会は今春、消費者委員会の有志で「給与ファクタリング被害弁護団」を発足。今年2回行った電話相談窓口には約10件の被害が寄せられた。7月には全国で初めて、大阪府警が貸金業法違反(無登録営業)容疑で給与ファクタリング業者を摘発している。

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 一方、取引先から代金を受け取る権利(売掛債権)を現金化する「事業者向けファクタリング」には、ノンバンクから地方銀行、メガバンクまで参入。 金融機関の関心は高いが、ここでも取引先に債権売却を通知しない手法での悪質業者の存在が指摘されている。「債権売却を知られれば信用を失う。被害も表面 化しにくい」(日本貸金業協会)という。

 福岡市の黒木和彰弁護士は「緊急事態宣言下に、クリニックで診療報酬を債権にした相談もあった。業者は利用者が破綻しても、泣きつく親や会社の上司から取れると勧誘してくる。金融庁や経済産業省も病理現象を把握しているが、特定の規制官庁がない隙間に入り込んでいる」と指摘している。 (座親伸吾)