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 被害が深刻な交通事故は加害者の側にも耐え難い心痛をもたらす-。そんな現実を浮き彫りにした裁判が結審した。

 車で高校生2人をはねて死傷させ、自動車運転処罰法違反(過失致死傷)の罪に問われ、一審前橋地裁で「事故は予見できなかった」との理由で無罪になった被告(88)の控訴審だ。

 東京高裁で被告側が有罪を主張し、注目された。刑事裁判では極めて異例の展開だ。

 弁護人は、被告は事故を繰り返しており「運転を回避する義務があった」と理由を述べた。被告は「余命は長くなく、罪を認め、償いたい」との意思を示したといい、家族の意向にも沿った主張の変更だという。

 この被告の事故は家族が「車の鍵を取り上げるべきか」などと話し合った直後に起きた。若い被害者の無念を推し量れば、加害者の家族であっても、悔 やみきれない心境なのだろう。判決は11月25日に言い渡される。 もちろん司法の判断は感情に流されてはならない。ただ高齢ドライバーが身近にいる人に とって、従来より一歩踏み込んで運転と安全について話し合うきっかけとなる裁判ではないか。

 現在の高齢者は若いころに乗用車が普及し、運転免許を取得してマイカー社会をリードした世代である。75歳以上の免許保有者は昨年末で580万人 余と10年間で倍増した。死亡事故を起こした件数は年400件台と高止まりしている。原因はハンドル操作ミスなどが多い。視力や運動能力に加え認知機能の 低下は加齢に付きものだ。

 免許証を自主返納する人も増えた。75歳以上は昨年、35万件余で全体の6割近くを占めた。

 今年6月に改正道交法が成立し、2年後に施行予定だ。新たな施策で注目したいのは、自動ブレーキなど先進安全機能を備えた安全運転サポート車(サポカー)限定免許の導入である。運転に不安を抱える人の新たな選択肢として期待されている。

 これまでの対策は、高齢者にいかにハンドルを握らせないかに主眼が置かれた。それだけでは、公共交通機関が整備されていない地域では通院など日常生活に支障を来す人もいる。

 ここ数年、サポカーをはじめ車の技術開発は目覚ましい。高速道での車線変更を支援するシステムを搭載した車が既に販売されている。人間が運転に全く関与しない完全自動運転の技術の開発も視界が開けてきた。

 超高齢社会を迎え、地域内を周回するバスの拡充や、バス、電車、タクシー利用時の補助充実も不可欠だ。自分にはどの手段が最も適しているか。加害者とならないために、家族や知人と真剣に話し合いたい。