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 「新型コロナウイルスの 感染リスクがあるのに、職場が国の慰労金を申請してくれない」。病院や介護施設で働く人から、西日本新聞「あなたの特命取材班」に憤りの声が相次いだ。国 の慰労金は新型コロナで負担が増す医療・福祉分野の働き手をねぎらうために給付されるが、受け取れるかは事業所の対応次第という。

 福岡県の女性は、医薬品の取り扱いのため病院で働き、診察室で患者と接する。にもかかわらず派遣元の会社から慰労金が出ないと聞いた。「手続きが手間で迷惑が掛かるので、病院には申請を頼まないそうです」

 清掃業の女性(61)=同県=は病院に委託されてトイレや浴室を掃除し、病室で患者と話すこともある。感染者の排せつ物にはウイルスが潜むとされ、便器や床に残る汚物をブラシでこすると、しぶきが飛ぶ。「もし吸い込んだら…」と、日々の不安は大きい。

 福岡市の介護施設で働く40代の看護師も「慰労金をもらえないのはおかしい」と憤る。高齢者の入浴を介助し、声が小さいと口元に耳を近づけるなど、感染リスクと隣り合わせだ。

 厚生労働省によると、医療機関では感染者やその他の患者と、介護・障害者施設では利用者と、それぞれ対面や会話をすると給付される。病院の清掃や給食業務も「対象となる場合が多い」としている。

 3人は受給できないのか-。申請内容を確認するのは都道府県。福岡県庁の複数の担当部署に聞くと、少なくとも清掃業と看護師は「受給できる可能性がある」との回答だった。

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 慰労金は、6月末まで病院などで働いた人に、患者との接触の程度に応じて1人5万~20万円が支給される。医療機関や施設が直接雇用の職員と、業務委託する業者の従業員の分を、まとめて手続きする。

 この代理申請のルールが壁になり、同様の不満は全国で噴出。厚労省は急きょ、漏れなく申請するよう医療機関などに通知した。

 背景に、事業所の事務作業の増加と、制度の周知不足があるようだ。申請には、患者との接触状況などを調べる必要がある。福岡県の病院幹部は「行政 に出す関係資料が多く、負担は大きい。病院ごとに対象者の解釈は異なり、申請されない外部業者はあるかもしれない」と打ち明ける。

 では、なぜ代理申請なのか。厚労省によると、個人申請では、勤務実態や勤務先を都道府県が確認することになり、作業が煩雑になる。担当者は「今の方法が最も早く給付できる」と説明する。

 実際に感染者が入院した病院に派遣され、給食調理を担う北九州市の女性(61)でさえ「申請してもらえない」と訴える。立場の弱い外部の委託業者 が、従業員の手続きを病院などに迫れない事情も垣間見える。九州大の馬場園明教授(医療経営学)は「病院での給食や洗濯、清掃を外部業者が担うと、従業員 に感染リスクが生じる。当然給付されるべきだ」と指摘する。

 地方自治総合研究所の上林陽治研究員は、医療・福祉分野の非正規労働者が低賃金と感染不安で離職傾向にあると懸念する。「コロナ後の社会を考えてもケア職種の雇用は大切。慰労金の手続きは事業所任せにせず、雇用保険の加入情報を使い、都道府県労働局が直接給付してもいいのではないか」と話した。

(編集委員・河野賢治、竹次稔)