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弱者は切り捨てても構わないという発想が根底にあるのではないか。

 萩生田光一文部科学相が大学入学共通テストの英語で導入される民間検定試験について、家計状況や居住地で不利が生じるとの指摘に「自分の身の丈に合わせて頑張ってもらえれば」と24日のテレビ番組で述べたのである。
 2020年度から大学入学共通テストで活用される民間検定試験は英検、GTEC、TOEFLなど6団体7種類。20年4~12月に最大2回受験できる。受験会場は都市部が中心となる。
 導入を巡っては、かねて公平・公正を確保するのが困難であると指摘されてきた。試験ごとに会場数、回数、検定料などが異なり、居住する地域や家庭の経済力によって有利、不利が生じるからだ。
 萩生田氏の発言は、それぞれが置かれている条件の中で努力すればいい―という趣旨であり、格差の拡大を是認するに等しい。
 反発が広がったことを受けて28日、報道陣の取材に応じ「受験生に不安を与えかねない説明だった。おわびしたい」と謝罪した。
 さらに29日の閣議後記者会見では「受験生を見下したり切り捨てたりすることを念頭に発言したわけではない」と釈明した上で、「撤回し、謝罪する」と述べた。
 離島をはじめ遠隔地に住む受験生は試験会場までの交通費や宿泊費に多額の出費を余儀なくされる。移動の時間もかかる。地理的条件、経済上の制約によって、受ける試験が限定される受験生も出てこよう。
 都市部の受験生はそのような負担がない。家庭に経済力があれば、高校3年になる前に検定試験を何度も受けて、慣れておくこともできる。貧富の差、居住地の差が試験の成績を左右するだろう。
 萩生田氏は、受験生に不公平が生じる懸念に対し「『あいつ予備校に通ってずるい』というのと同じだと思う」と24日のテレビ番組で反論していた。本当にそうなのか。
 大学受験の公平が損なわれる事態は、予備校に通うかどうかといった話と同列には論じられない。教育の機会均等を定める教育基本法、教育を受ける権利を保障する憲法の理念に関わってくる。
 萩生田氏は「さまざまな課題があるのは承知の上で取り組んできた。さらに足らざる点を補いながら、予定通り実施したい」と29日の会見で話した。制度の欠点を認識しながら、甘受するよう求めているように映る。
 大学入学共通テストと銘打つからには、全ての受験生が生活圏の中で同一の試験を同一の日程で受けられる仕組みを整えるべきだ。
 各自が置かれた環境によって不利益が生じることはあってはならない。文科相発言は制度の不備を改めて浮かび上がらせた。実施を延期した上で大幅に見直した方がいい。