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「ゆでガエル理論」というものがある。水の中にカエルを入れて水温をじわじわ上げると、温度上昇に気付かず、いつの間にかカエルがゆであがってしまう―という考え方だ▼いきなり熱湯に入れると飛び出すが、徐々に熱くすると分からない。気付いたときにはすでに手遅れというたとえとして、しばしば使われる▼新興俳句運動を推進し、治安維持法違反で摘発された渡辺白泉の「戦争が廊下の奥に立つてゐた」も、手遅れに気付いた恐怖がにじみ出ている。ときは1939年(昭和14年)。日中戦争は泥沼化し、38年に国家総動員法が発令、40年に大政翼賛会が結成された。41年の治安維持法改正で適用範囲が拡大され、日米開戦へと続く時代だ。戦争の気配が気付かぬうちに社会に忍び込んでいたことを、この句は教える▼「じわじわ」は過去のものとは言い切れない。新年度予算案の防衛費は5兆2574億円と、5年連続過去最高を更新した。地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」整備や新型ステルス戦闘機F35の大量調達など、専守防衛を掲げる国とは思えない内容だ▼特定秘密保護法や安保関連法、「共謀罪」法が制定され、集団的自衛権の行使容認も、閣議決定された。白泉の時代と似ていないか▼ゆでガエルになってはいけない。廊下に目を凝らしたい。きのうで没後50年。白泉が生きていたらどんな句を詠むだろう。