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自民PTの提言を通してはダメだ(塩崎厚労相)/(C)日刊ゲンダイ

 また自民党の老人イジメが始まった。年金の受給開始年齢を、現行の65歳から70歳に引き上げようとしているのだ。

 65歳以上の働き方などを議論する自民党のプロジェクトチーム(PT)が26日、公的年金の受給開始年齢を現在の上限「70歳」より遅らせれば年金額が増える仕組みの導入を政府に提言した。一見、選択幅が広がって「お得」な感じがするが、とんでもない話だ。

 現行制度では原則、受給が始まるのは65歳から。受給開始時期を60~70歳の範囲で遅らせたり早めたりすることができる。早めた場合は65歳から受給するのに比べ、最大30%減額。遅らせると最大42%増額される仕組みだ。自民党PTの提言は70歳以降に受給を開始すれば、受給額がさらに増額されるというものだ。

■早死にしたら大損

 しかし、70歳からの受給を選んだら、ほとんどの人は損する可能性が高い。

「70歳から受給を開始したら、相当長生きしないと割に合わなくなります。現行制度では60歳からもらっている人の受給額を、65歳からもらった人が上回る“損益分岐点”は82歳程度です。つまり、82歳より長生きできる自信がある人は、65歳から受給した方がお得。70歳開始という自民党PTの提言が実現すれば“分岐点”はさらに後ろ倒しになるでしょう」(厚労行政事情通)

 厚労省の2015年分の統計によると、日本人の平均寿命は男性が80・75歳、女性は86・99歳というから、70歳開始だと大半の男性は損することになる。

 さらに、この提言には“黒い”思惑が隠されているという。

「PTは65歳までを『完全現役』、70歳までを『ほぼ現役』として、『60歳定年』引き上げを求める骨子案をまとめています。今回の動きと合わせ、PTの狙いは年金の受給開始年齢を将来的に『65歳』から『70歳』に引き上げること。今回の提言はそのための“地ならし”です」(前出の厚労行政事情通)

 2015年のOECDのリポートによると、日本の65歳以上の貧困率は19・4%。こんな提言を通していいのか。経済ジャーナリストの荻原博子氏はこう言う。

「選択幅が広がったことはメリットですし、年金財源の確保にはある程度の『措置』が必要なのも理解できます。しかし、物価が上昇して賃金が下がっても受給額を削れる“年金カット法”が昨年成立したばかりです。保険料も徐々に上がっています。『次は受給年齢を引き上げよう』というPTの思惑が透けて見えます。安易な発想で受給年齢を引き上げることは許されません」

 もともと、年金支給は60歳からの約束だった。それがいつの間にか65歳に引き上げられたばかりだ。国民はよーく監視した方がいい。