冷たい風が吹く中、安保法廃止を求め、通勤客が行き交う朝の路上に立つ釜鈴実さん(村本典之撮影)
集団的自衛権の行使を可能にする安全保障関連法をめぐり、国内が揺れた2015年。平日の毎朝、札幌市の路上に無言で1時間立ち、法の廃止を求め続ける男性がいる。市営地下鉄の麻生駅(札幌市北区)近くで、プラカードを胸に下げて立つ「一人デモ」を始めて4カ月。「諦めていないのはあなただけじゃない。ここにもいる」と、無言で訴えている。
一人デモを始めたのは、法案が参院で審議されていた8月31日。午前7時半から1時間、安保法案の反対集会でもらったチラシを服に張り付け、無言で立った。麻生駅にしたのは自宅から近い上、石狩市方面に接続するバスがあり、平日の朝なら大勢の通勤客に見てもらえると思ったからだ。
最初の2カ月は、誰も目を合わせてくれなかった。「変なやつと思われたんでしょうね」。3カ月を過ぎたころ、小さく会釈したり、目であいさつしてくれたりする人が少しずつ現れた。そのうち、近くのビルのオーナーが「荷物を置いて」とガレージの一角を貸してくれた。雨風でチラシが破れると、友人が「戦争法廃止」と印刷した紙を段ボールに張り、プラカードを作ってくれた。
戦後平和主義に共感を覚え、それを揺るがす政治には「ずっと抵抗してきた」。札幌の印刷会社で働いていた70年安保闘争時は、労働組合の仲間と反対運動に打ち込んだ。高齢者下宿を経営していた2003年に自衛隊のイラク派遣が決まると、翌年、反対のメッセージを身に付け通勤した。
自分を見て、安保法に賛成する人が反対に回ることまでは期待していない。それよりも時が過ぎ、法成立直後の怒りが薄れつつある人に自分の存在を知ってほしい。「消えかかっている火を絶やさせないことが俺の役目」と語る。20年続けてきた高齢者下宿の経営を今年11月、長男に譲った。「ひまなじいさんだから、次の選挙までは続けたい」(報道センター 久保田昌子)
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