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 敗戦から半月後の1945年8月30日。連合国軍最高司令官ダクラス・マッカーサーは専用機「バターン」号で神奈川県の厚木飛行場に着陸した。ぱっくり開いた昇降口からコーンパイプをくわえ飛行場の芝生に降り立ったと当時の本紙は報じた▼この日から5年8カ月にわたり、無条件降伏した日本に最高権力者として君臨し、戦後の民主化政策のレールを敷く。「日本の戦後史の鋳型」が形成される経緯は袖井林二郎著「マッカーサーの二千日」(中公新書)に詳しい▼特高警察の廃止や財閥解体、学制改革などを矢継ぎばやに進め、象徴天皇や戦争放棄の理念を盛り込んだ新憲法も制定させた。安倍晋三首相が毛嫌いする「戦後レジーム(体制)」は、この「鋳型」を指すに違いない▼最近は「戦後レジームからの脱却」とは声高に語らぬが、悲願の自主憲法も、一連の教育改革も、目下の安全保障法制も同じ流れにある▼戦後生まれが人口の8割を超え、占領下の記憶は薄れつつある。でも国民の多くは戦後の復興と平和日本の歩みに誇りを抱いてきたのではないだろうか。それゆえに、急激な「鋳型」のぶち壊しに戸惑いを禁じ得ない▼きょう、あの日から70年を迎える。「最高責任者は私だ」と君臨している為政者の振る舞いが気掛かりな昨今である。

[京都新聞 2015年08月30日掲載]