http://www.iwate-np.co.jp/ronsetu/y2015/m06/r0630.htm

 「何が秘密か、それが秘密」。特定秘密保護法に対するそんな指摘があらためて裏付けられる形となった。
 政府から国会に提出された初の運用状況報告書のことだ。年1回提出されることになっており、今回は施行日の昨年12月10日から年末までの22日間分をまとめている。
 その内容は、特定秘密の指定件数や、「外国政府との情報協力」などといったおおまかな類型の開示にとどまっている。「内容が抽象的」と専門家が批判するように、指定が適正なのかどうかをチェックするのは極めて難しい。
 官僚優位の制度設計であることがあらためて鮮明になっている。予想されていたことではあるが、もちろん、それでよいわけがない。
 報告書に盛り込まれた有識者の意見も「次回報告は、より具体的に示し、可能な限り国民に分かりやすい形で報告・公表する」よう求めた。各行政機関の特定秘密管理者数、扱う部署名・管理者名、有効期間別の指定状況などは当然加えるべき事項だ。
 報告を受け、衆参両院の情報監視審査会が秘密指定の妥当性などの審査を行う。国会の監視機能が試される。
 「壁」が厚いとはいえ、厳しくチェックする姿勢を怠ってはなるまい。現行制度の問題点を浮かび上がらせる必要がある。審査会は行政機関の長に対して運用改善を勧告することができる。政府の外にある唯一の監視機関として、役割は重要なはずだ。
 だが現状では期待感が薄いのも確かだ。政府は勧告に従う義務がない。また、衆参それぞれ8人の議員で構成する審査会は与党が多数を占め、問題意識が乏しければ「追認機関」になりかねない。
 施行に伴い問題視されたことに特定秘密取扱者に関する「適性調査」がある。関係する省庁の公務員のほか、都道府県の警察職員、防衛産業の従業員らが対象になる。
 報告書によると昨年の実施はなかったが、今年は既に行われていることが分かっている。病歴や家族の個人情報などを調べることからプライバシー侵害が懸念されており、慎重な対応とその検証が必要になる。
 もともと秘密保護法には指定の恣意(しい)性に対する強い懸念があり、反対論が広がったが、強行採決で成立した。安保法制論議をめぐる政府の姿勢を見るにつけ、機密の在り方に対する憂慮は増すばかりと言える。
 廃止すべき法律だが、少なくとも制度の改善は図らなければならない。透明度を上げていく不断の取り組みが求められている。現状に甘んじるならば、国会の権威を低下させ、政治不信を深めることにもなりかねない。