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 政府が労働者派遣法改正案を国会に提出した。今国会最大の対決法案だが、それだけではない。この国の在り方をも占う法案だ。
政府は今国会での成立を目指すが、国の在り方を左右する以上、慎重審議に徹すべきだ。
現行法は通訳などの専門業務を除き、派遣労働者の受け入れ期間に3年の上限を設ける。改正案はこの制限を撤廃し、全ての業務で、3年ごとに働く人を交代させれば、半永久的に派遣労働者を使い続けられるようになる。賃金を安く抑えたい産業界の求めに応えた形だ。
疑問を禁じ得ない。現行法が期間を制限してきたのは、恒常的に発生する仕事には恒常的な正社員を充てるべきだとの原則があったからだ。制限がなくなれば正社員を派遣労働者に置き換える動きが一気に進みかねない。社会全体に不安定雇用を広げることになる。
安倍晋三首相らは「生涯派遣の労働者を増やすとの批判は当たらない」と釈明に躍起だ。だが、なぜ派遣の増加にならないのか、納得のいく説明は見当たらない。
バブル崩壊後の日本経済は失われた20年と称される。経済成長率のマイナスも経験し、右肩上がりの神話は失われたが、もう一つ失われたものがある。雇用の安定だ。
経済成長の喪失と安定雇用の喪失。二つの喪失は一見別物に見えるが、実は深い関連が疑われる。
総務省の昨年の発表によると、非正規社員は労働者の38・2%と過去最大を更新した。20年前に比べ非正規の割合は16ポイントも上昇している。1990年代後半以降の労働法制改定で企業が非正規雇用をしやすくなったことが大きい。
低所得者の増加はすなわち、消費に慎重な層が増えるということだ。消費の意欲と実需が高いのは若年層・子育て層であり、その層に不安定雇用が広がると当然、消費は収縮する。人件費抑制で短期的には企業は利益を上げるが、国全体の消費が収縮すれば回り回って業績悪化につながりかねない。
この派遣法改正は一見、企業を利するように見えて、大局的には経済政策としても消費拡大に逆行するのだ。
労働法制改定は小泉構造改革で進み、その結果が不安定雇用の拡大、格差拡大だった。安倍政権は派遣法改正から「残業代ゼロ法案」、「解雇特区」など、労働法制を一層改悪しようとしている。構造改革の失策を繰り返してはならない。