http://www.shinmai.co.jp/news/20140930/KT140929ETI090008000.php

「やるっきゃない」「だめなものはだめ」。歯切れのいい語録が印象深い。鮮やかなスーツ姿の土井たか子さん。1989年の参院選で社会党を率いてマドンナ旋風を巻き起こし与野党逆転を実現した



衆院議長就任では女性の社会進出の象徴とも見られたが、「女性初という枕詞(まくらことば)が最もふさわしくない議長」(伊吹文明衆院議長)との見方が妥当だろう。大きな器量あってのこと。それどころか、党の「男」たちの後始末という損な役割ばかり―とは評論家佐高信さんの指摘だ



生涯、護憲を使命とした。自著によると「反戦」の原点は神戸大空襲だ。目前で母子が直撃弾を受けた。逃げ回った末の校庭は焼死体が転がる地獄絵だった。医師の父に命じられ血まみれになった人の腕の切断を手伝う。「戦争は人間を人間でなくしてしまう」



頑固、化石と言われようが、譲れないものは譲れない―。国政を去った後も「憲法の伝道師」を自任し、戦争を知らない世代にどう伝えるかに腐心した。憲法の解釈変更が進んでいる。心配だったに違いない。平和の尊さを身をもって知る“護憲の旗手”の穴はあまりに大きい



きのう始まった臨時国会は緊張感を欠く。だめなものはだめと対抗できる野党など望むべくもないのか。「元気な姿だけ覚えていてほしい」と、療養中は親しい人とも会わなかった。毅然(きぜん)として、やはり最期も土井さんらしい。