http://www.shinmai.co.jp/news/20140930/KT140929ETI090009000.php

 掛け声ばかりが目立ち、具体策が乏しい。こう感じた人も多かったのではないか。

安倍晋三首相がきのう行った所信表明演説である。

政府、与党はこんどの臨時国会に「地方創生国会」という大きな看板を掲げた。

演説では、全国各地の地域活性化の成功例を実名を挙げながら、次々に紹介した。

地方に自発的な取り組みを求める一方、首相は地方対策の司令塔となる地方創生本部を立ち上げたことを説明。「これまでとは次元の異なる大胆な政策を取りまとめ、実行する」と強調した。

演説は今後への期待を抱かせることが中心で、政策の道筋や展望など具体性を欠いた。今国会のもう一つの目玉である女性の活躍の後押し策も同様だ。看板の大きさの割に中身は薄かった。

少子高齢化が進む中、人やカネが一部の大都市に集中し、地方は衰退する。この流れを止め、地方を元気にする―。

首相が訴えていることを大ざっぱに言うとこうなる。

演説では「人口減少や超高齢化など、地方が直面する構造的な課題は深刻」との認識を示した。構造的とは複雑な要素が絡み合っていることを意味する。過去の政権も取り組んだが、目立った成果を出すことはできなかった。それほどの難しさがある。

首相が本腰を入れる気があるならいいが、急に重要課題として持ち出したことが気になる。

政府に自らをトップとする地方創生本部を新設すると表明したのは6月のことだ。その後の内閣改造では地方創生担当相を設け、地方を重視する姿勢を盛んにアピールするようになった。

来年春には統一地方選がある。これに勝てば首相の長期政権が現実味を増す。演説では選挙や支持率への影響を意識してか、安全運転に配慮する姿勢が目立った。集団的自衛権の行使容認に伴う安全保障法制の具体的な中身や消費税率10%への再引き上げの判断には踏み込まなかった。

いずれも国民生活に深く関わる問題だ。当面の政権運営に逆風になることを避けようとの考えだとしたら、不誠実である。

首相は選挙のために「地方創生」という大風呂敷を広げてはいないか、実効性ある政策を打ち出すことができるか。冷静な目で政権の取り組みを見る必要がある。スローガンに終わることがないよう、野党は論戦で厳しく首相を追及してもらいたい。