人さし指にペンを結び付ける。介助者が手を添え、指先の小さな動きを感じ取ってノートに平仮名をつづる。息を合わせた共同作業がよどみなく詩を生み出す。東京都の堀江菜穂子さん、22歳。生まれて間もなく重い脳性まひを患った
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手足が動かず寝たきりの生活。言葉も話せない。特別支援学校の中学部のときに自主スクールで筆談の練習を始める。最初はパソコン画面から文字を拾う方法だった。〈なおこかわいーよ、きれいな、ままですよ、えらいぱぱ〉。初めて表現した言葉だ
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しばらく後「詩を書いたことありますか」と先生に聞かれた。文字を拾いパソコン画面に紡いだのは一編の詩。〈きたのそらからきこえている こえにむかって/わたしは さけぶ/すてきなくには どこにありますか〉。今夏発刊した詩集「いきていてこそ」につづられている
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編集者の平沢拓さん(33)は新聞で堀江さんのことを知った。平仮名の限られた文字が表現する命の重さや生きる意味。その言葉の力に心が救われるほどの感動を味わい、出版にこぎつけた。詩集にはこれまでに書いた約2千編から、54編を選んで収めた
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〈いまつらいのも/わたしがいきているしょうこだ/いきているから つらさがわかる……どんなにつらいげんじつでも/はりついていきる〉=「いきていてこそ」。堀江さんにとって詩作は〈わたしじしんをかいほうするこうい〉=「はたちのひに」。その言葉からは勇気さえもらえる。