https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2021082300065

 段ボール3箱分。1万5千枚余に上る書類のほぼ全てが黒く塗りつぶされていた。名古屋の入管施設でスリランカの女性ウィシュマ・サンダマリさんが死亡した事案をめぐり、遺族側に開示された公文書である。

 看守の勤務日誌が大部分を占め、ほかに面会簿や診療の記録がある。文書の表題や決裁の押印以外はほとんど真っ黒で、内容は一切うかがい知れない。開示を拒否したに等しい対応だ。

 黒塗りにした理由として入管側は、個人の権利・利益が害される恐れのほか、保安・警備や、退去強制(国外退去)に関わる事務に支障が及ぶことを挙げた。けれどもそれは、何もかも隠すことを正当化する理由にならない。

 行政に関わる文書や記録は、当局の所有物ではなく公共の財産である。入管施設で何が起きていたのか。ウィシュマさんはなぜ命を落とさなくてはならなかったのか。情報をできる限り公開し、説明する責務があることを政府は認識しなければならない。

 死亡から5カ月余を経て入管当局は調査報告書を公表したが、死因すら明らかになっていない。複数の要因が影響した可能性があり、特定するのは困難だと結論づけた。死に至らせた責任を逃れようとする姿勢がにじむ。

 外部の学識経験者らに意見を求めはしたものの、あくまで入管当局が主導した内部調査である。徹底した検証と究明が必要だ。関連する公文書やウィシュマさんを隔離した部屋の監視映像の開示は、そのために欠かせない。

 監視映像についても、入管当局はごく一部を遺族に開示したにとどまる。与党は国会での開示に否定的な姿勢を変えず、閉会中審査に応じていない。憲法に基づいて野党が求めた臨時国会の召集を菅内閣は放置している。

 衰弱したウィシュマさんに対する入管の過酷な対応と死亡の因果関係さえぼやかされたまま、真相を闇に閉ざすわけにいかない。政府は全ての監視映像と関連文書を遺族、国会に示すべきだ。

 ウィシュマさんの死は、たまたま起きた不運な出来事ではない。入管施設での死亡は過去にも相次いでいる。在留資格がない外国人をこの国から排除すべき存在と見なし、原則全て収容する制度のあり方に根差す問題だ。

 司法や独立した機関の関与がなく、強大な行政権限がゆがみを生んでいる入管制度を根幹から改める必要がある。声を社会に広げ、政府、国会を動かしたい。