https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2021082600135

 暴力団捜査や暴力追放運動の追い風になる司法判断が出た。

 特定危険指定暴力団工藤会が関わったとされる一般市民襲撃4事件で、福岡地裁が、トップの総裁野村悟被告に死刑、ナンバー2の会長田上不美夫被告に無期懲役を言い渡した。

 殺人と組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂)などの罪に問われた。両被告は関与を直接証明する証拠がないとして無罪を主張したが、退けられた。

 地裁は、直接証拠がなくても関係者の証言や状況証拠から関与を認定できると判断。両被告が意思疎通しながら最終的に野村被告が決定しているとし、厳しい量刑の理由も示した。

 一般的に組織的な犯行がうかがわれても、指示を受けた具体的な供述が得られなければ上層部を立件しづらい。不起訴や無罪となった事例もある。

 今回の判決は、強固な組織性が立証できれば、上層部も刑事責任を問える道を開いた。一歩踏み込んだ判断だ。

 4事件は、1998年の元漁協組合長射殺、2012年の元福岡県警警部銃撃、13年の看護師襲撃、14年の歯科医襲撃だ。1人が死亡、3人が負傷している。

 福岡県では90年代後半から工藤会が関わったとみられる発砲や襲撃事件が続発。不当な要求を断った企業や飲食店の関係者が次々に狙われ、高級クラブに手りゅう弾が投げ込まれた。

 県警は14年、組織壊滅に向け大規模捜査に着手。警察に不信感を抱いたり暴力団の報復を恐れたりした被害関係者や元組員らと粘り強く接触し証言を得た。

 公判では検察側だけで延べ88人の証人が出廷し、被告とのやりとりや組織の実態を証言している。

 綿密な捜査による傍証の積み上げが、厳格に統制された工藤会の強固な組織性の証明につながったと言える。

 地裁は、量刑判断でも組織性を重視している。1人殺害で死刑適用は異例だが、反社会集団が計画的に実行している点を厳しく非難した。組織トップには、元漁協組合長事件だけでも極刑を選択すべきとも指摘している。

 弁護側は控訴する方針だ。間接証拠だけで犯行の関与が認定できるのか。死刑の適用は妥当か。改めて議論になるだろう。

 組織犯罪に厳しい目を向けるのは当然だ。一方で事実認定や量刑判断の幅広い解釈は冤罪(えんざい)を生む危うさがある。誤った捜査を招かぬよう注視していかねばならない。