盤石を誇った地元でも世論の逆風の強さが示された。菅義偉首相にとって、自民党内での求心力低下にも直結する結果だ。てこ入れを図った横浜市長選は想定外の大敗に終わった。
首相が推した前国家公安委員長の小此木八郎氏は、かつて秘書として仕えた元通産相の三男で、近年は側近中の側近と目される間柄だ。自民党市連が自主投票となる中で、首相は党役員会で自ら支援を表明するなど地方選挙としては異例の踏み込んだ対応を見せた。
新型コロナウイルスの感染拡大は市長選告示後も歯止めがかからず、政府の手詰まり感は強まった。首相が肩入れすればするほど、政権批判の逆風を小此木氏に集める形となった。
基礎票では勝るはずだが、当初から接戦が伝えられ、当選した立憲民主党推薦の山中竹春氏との差は日ごとに広がった。山中氏は横浜市立大医学部の元教授として「唯一のコロナ専門家」をアピールし、野党だけでなく無党派の支持も集めた。
もう一つの争点だったカジノを含む統合型リゾート施設(IR)誘致を巡る菅首相の「ぶれ」も、小此木氏に不利に働いたと考えられる。
政府は旗を振っているのに、誘致中止を打ち出した小此木氏を首相が支援する不可解な構図となった。誘致推進の現職候補との間で自民党支持層が分裂したばかりか、小此木氏がいずれ主張を翻すのではないかという疑念まで招いてしまった。
誘致反対を訴えた山中氏の当選で、横浜への誘致は難しくなった。他の国内候補地もコロナ禍の直撃を受ける中、成長戦略の目玉としてのIR誘致が被ったダメージは大きい。
菅首相はきのう、自民党総裁選に出馬する意向を重ねて表明した。ただ「選挙の顔」として党内の疑問が強まることは避けられまい。緊急事態宣言の延長で、衆院解散・総選挙後に総裁選という当初の再選戦略は封じられつつある。今、首相が直視すべきは、政権に向けられてきた民意の厳しさの方だ。
首相就任以降、国政選挙や大型地方選で敗北を繰り返してきたのは、コロナ対策の不首尾に加え、国民の心に届く言葉を持たないからにほかならない。
今回、地元の有権者までが首相に冷ややかな審判を下した事実は重い。首相の活路は、国民の命と健康を守り、不満や不安を解消する手だてを具体的に示すしかあるまい。
野党側も今回の勝利はあくまでも「敵失」であると肝に銘じるべきだ。山中氏の得票は過半数には遠く及ばない。本当に政権批判の受け皿となり得たかどうか、自問が必要である。